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ヨーロッパの歯科事情

ドイツ最先端の歯科技術

こんにちは。

IPSG事務局、稲葉由里子です。 

1月13日、IPSG20周年特別講演会関連セミナーとして、『テレスコープシステムセミナー』が 開催されました。

今回、大変素晴らしいゲストスピーカーをお招きいたしました(^_^)


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神奈川歯科大学付属横浜クリニックインプラント科の林昌二先生です。

林先生とは、昨年開催された、ISOI国際インプラント学会へ出席させていただいたときに、IPSG20周年にお招きする、Weber教授よりご紹介いただきました(^_^)


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林先生は1996年にドイツ、チュービンゲン大学、Weber教授のもとに留学をされました。

稲葉先生が1978年、その18年後ということです。

今回お話いただいたテーマは、

『可撤性電鋳上部構造について』 

ということで、ドイツの最先端の歯科技術についてでした。


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林先生は、DGZI日本支部の初代会長をされ、ドイツから日本へ、日本からドイツへ

インプラントの歴史を繋ぐ、国際交流の架け橋をされています。 

ドイツ人は良いものを長く使う国民性があります。

アメリカは、新しい技術がめまぐるしく変わりますが、ドイツではほとんど変わらないように見えますが、 それだけ安定していると言えるでしょう。


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Tuebingenとの出会いということで、すごい記事をみせていただきました。

33歳という若さで教授となったWeber教授のお写真です。

こちらQDTの記事の中には

『チュービンゲン大学補綴第2講座の主任教授、Hener Weber博士が本学術大会において”固定性および可撤性の補綴における新しいテクニック”について講演される。1982年からチュービンゲン大学の教授となり、世界的に活躍している若手のホープである。〜中略〜西ドイツといえば、すでにご承知のごとく、アタッチメントコーヌスクローネをはじめとして、新しい治療様式の開発がさかんなメッカである。Weber教授は補綴学分野において新しい技術の開発を行っている事から考えて、いかに先駆的な研究をしているかわかっていただけるだろう。・・・』

というような内容で紹介されていました。 


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右下の写真は、林先生のお嬢様がWeber教授にプレゼントされた似顔絵だそうです。

ドイツ人は、既成のものを贈り物にするよりも、気持ちが入った手作りの贈り物をする方がずっと喜ばれるそうです。

この似顔絵も教授室に2年ぐらい飾られていたとか・・・(^_^)


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セミナーの中で林先生は、家族でドイツへ留学されていたので、今の人間関係を築く事ができたとおっしゃっていました。

大切は人といかに長く大事な人間関係を結ぶか。

は、ドイツでは特に一番身近な家族の存在が大きいということです。  


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林先生はチュービンゲン大学にインプラントを勉強しに行ったそうですが、Weber教授をはじめとする、先生方は、インプラントはどこでも学べるので、日本に戻ってからもできる研究の方がいいのではないかということで、

『電鋳加工』

について、大変熱心に研究を行ってきたそうです。 

日本ではなかなか受け入れられない風潮があるようですが、

ドイツでは、

「誰が行っても同じゼロフィッティングできる技術があればいいのではないか」

という考えだとお聞きしました。

鋳造や混水比による誤差を生じません。 

日本では以前にアルジネートを手で練っていますが、ドイツでは石膏もアルジネートもすべて器械研磨。(シリコン印象がほとんどなので、すでにアルジネートは使われていないと思いますが・・・)

誰が行っても同じ効果を得られて、誤差がない道具。

ドイツ人が考えそうですね(^_^)


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林先生の技術はどっしりとしたドイツ流で、IPSGの先生方との共通点も非常に多くあるように感じました。

咬合器付着とフェイスボートランスファーは必須です。


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林先生は、ヨーロッパ補綴学会で、電鋳の発表をずっと行ってこられました。

日本ではごく一部の先生方しか電鋳の効果を実感していないのが現状だそうです。

林先生も、天然歯とインプラントの上部構造に、ドッペルクローネで対応されていましたが、なにも問題がないとおっしゃっていました。

精度がいいということが、問題のない理由だと思います。  


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インプラントの植立位置を考える、咬合と応力がどこにかかるかをきちんと設計しないといけません。

この症例だと上顎の真ん中にすべて応力が集中することが、想像できます。

この10年の間に、インプラント治療をされた方の高齢化が一気に増えると予想されます。

その際、メンテナンスをしやすい形にすることが非常に大切だと感じます。

可撤性に変えられる構造に移行していく必要性についてお話をいただきました。

ただ、歯がないからインプラントをするのではなく、将来患者様がどのような状態になるかを想像して、次の一手二手を打つ必要があるとおっしゃっていました。  


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ドッペルクローネによる、インプラントと天然歯のコンビネーション症例など、他にも沢山の症例をみせていただきました。

ドイツ人のインプラントの設計は、最近見る、All-on4,6などに比べるとかなりしっかりとした印象がありました。

ドイツ人は、良いものを長く使うという国民性があります。

材料も新しいものに飛びつかず、10年残っている歯科材料にこそ信頼を持って使う事ができる。

とおっしゃっていました。

約2時間、大変貴重なドイツの最先端技術をご講演くださり、大変刺激的な内容でした。

その後の質疑応答でも、沢山の先生方からのご質問に丁寧に答えてくださいました。

今年の4月27日に開催される、IPSG20周年に繋がる素晴らしいセミナーだったと思います。

林先生、本当にありがとうございました☆♪ 

 

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オーストリアにおける診査診断治療計画

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田嶋健先生、「オーストリアの診査診断治療計画」2010年10月17日、東京八重洲ホールで開催されました。

オーストリア、ウィーン大学に7年留学していた田嶋健先生、帰国して初のセミナーが開催されました☆

ドナウ大学でマスターオブサイエンス日本の歯科医師でただ一人取得。稲葉繁先生の学生時代からの教え子であり、弟子です。

日本の歯科医はアメリカ方面に留学することは比較的多いですが、ヨーロッパに留学する方はとても少ないです。その中でも実際に臨床、講義をできる先生はごくわずかです。
実際に、患者さんの治療をできるのは本当にわずかな人です。というのは、日本のドクターというだけのタイトルではEUでは臨床ができないからです。

田嶋先生はマスターを取得したことで、社会的地位があがり、臨床もでき、歯科医を教える立場になれるそうです。スピード違反も免除されたとか・・・・(笑)

シークエンシャルオクルージョンで有名なシュラビチェック教授の右腕として活躍してきました。

これからも、日本でというより世界で、セミナーのオファーがあるそうで、忙しいようです。

さて、今回の「診査診断治療計画」 の話の余談・・・・

油田が沢山あるドバイの歯科医師は、研修会のついでに数百万円の咬合診断装置即金で買っていくそうです。

アラブでは治療の失敗は首をはねられるそうなので、治療の証拠を残すのは大切だそうです。

それほど、「診査診断治療計画」「咬合診断」は重要なのです。

参加されていた先生方は、背筋を伸ばして聞いていました(笑)

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午後はシークエンシャルオクルージョンについて、稲葉先生のするどい突っ込みをされながらのお話。

稲葉先生は舌、Swallowの動きや、口腔周囲筋の働きをとても重要としていますが、シュラビチェックの考えの中にはあまり、これについては触れていません。

上顎6番の斜走隆線は下顎が後方にいかないようにバリアーする役割があるなど、きれいなパワーポイントで説明。

改めて天然歯のすばらしさを実感しました。

同じ咬合の話でも稲葉先生が話すのとはまた角度が違ってとっても勉強になりました。

やはり、ヨーロッパの歯科傾向は咬合治療です。顎関節症、抗鬱薬を投与するアメリカの傾向に傾いている日本も本当に気をつけないといけません。

田嶋先生、たくさんの資料をおしみなく見せてくださり、本当にありがとうございました。

 

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その後、懇親会が開かれて、20名ほどの先生方が参加してくださいました!!

私も、子連れだというのに、楽しくて2次会まで参加させていただきました☆

 

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田嶋先生ご家族、稲葉先生と乾杯!!

充実した後のお酒はやっぱり美味しいです☆♪

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ヨーロッパの歯科事情

日本歯科新聞に掲載された記事をご紹介します。 20年以上前の新聞ですが、「高齢化先進国」についてかなり詳しく書いてあります。

今まさに日本が直面している高齢者社会を予測していた内容で、非常に興味深い内容です。

ぜひ、読んでみてください☆

 

我が国で初めて「高齢者歯科」を設けた日本歯科大学前教授がドイツ、イギリス、スイスなどヨーロッパの歯科事情を視察し、我が国の歯科医療の現状を踏まえて所感を語りました。

根本的に違う老人対策

日本で初めて高齢者歯科の診療科目ができ、わたしの専門は、この高齢者歯科となったが、これから日本は高齢者がどんどん増えてくる状態なのに、医療面では手探りの状況下にある。

そこで、高齢化社会の先輩であるヨーロッパを今回、視察してきた。ヨーロッパは長い歴史をかけて、高齢者が増えてきた。

フランスは全人口の7%が65歳以上となってから14%になるまで125年かかったといわれている。

一方ドイツでは50年ほどである。日本ではわずか26年である。このため、これから高齢者にどう対応するか手探りの状態だ。そこで、ヨーロッパでは、学生教育がどうなっているのか。あるいは在宅診療がどうなっているのか調べたいと思ってきたわけである。

わたしは、イギリス、ドイツ、スイスの3カ国を回りもう一人鈴木正直講師がフィンランドへ行った。

人口6千万人の小さな国であるが、高福祉が進んでいる。

日本はどちらかというと、社会の構成が団体的だ。フィンランドは個人単位である。このため日本としてもかなり参考にすべき点もあると視察することになった。アンケートもとってきた。まだその結果はでていない。

ヨーロッパには、高齢者のための国際的な学会がある。そこで、高齢者を専門にやっている先生に会って話を聞いてきた。また老人の施設も見てきた。

日本とヨーロッパでは根本的に違うことを、今回、改めて認識した。日本の場合、医療や技術、ハード面の器械類はとても進んでいると思う。世界的にもトップレベルにあるといえる。そこで、ハード面施設面ではそれなりに医療を行ってきている。

しかし、老人の治療はそれだけではダメで、つまり、病院を作るにしてもその周辺の施設がどうであるかが問われる。病院では、1日45分のリハビリしか、健康保険で許されていない。

寝た切り老人の原因となる大きな問題は、脳血管障害である。ヨーロッパでは一番の原因は骨折だ。大事なことは脳血管障害となったらそのあとのケアーをできるだけ早くし、寝たきりにさせないことである。

リハビリをして、体を動かして治療をするわけあるがそれを日本では、病院の中だけでやろうとする。一方、患者の生活の場はベットの上だけだ。どうしてもベットの上に寝てしまう。食事もベットの上だけだ。本来なら食堂があればよいが、それがない状況だ。

ベットの範囲しか生活の場がない。当然寝たきりになりがちだ。介護されると気持ちの上でも楽になってしまう。ヨーロッパでは寝たきりにはさせておかない。無理して起こしてしまう。

そして、ベット以外の老人たちの談話室や外に散歩する道もたくさんある。その中で、自分に課せられた運動を一生懸命やっている。できるだけベットにいる時間を少なくするようにしている。このため寝たきり老人はほとんどいないわけである。

高福祉化で医療が低迷

ドイツでは、高齢化歯科は併設されていない。しかし、軍隊があるので、訪問診療、出張診療には慣れている。ハンディーな治療器具も整っている。また日本と違ってホームドクターという制度があるため、診療所を患者さんが渡り歩くということもしない。

そこでホームドクターの役割は、一生その患者さんの面倒をみることになる。日本は、その患者さんが寝たきりになったらどの医師が診るのか決まらない。ホームドクター制度がないので、かかりつけの医師がいても、なかなかいない。

日本は近いとタクシー代が出るが、ドイツは反対に40キロ超えるとタクシー代がでる。ホームドクターが近くにいるから40キロ以上の特殊なケースしかタクシー代がでないのだ。

また日本では予防に保険の報酬が払われない。スイスの場合は。予防にしか保険が支払われない。補綴はすべて自費だ。

日本のように薄く、広くバラまくという考えはよくないと思う。特に、その点イギリスは悪かった。ナショナルヘルスサービスで揺り籠から墓場までという高福祉を行った。

あれは、歯科医にとっても評判がよくなく、患者さんにとっても好ましくなかった。財源がなくなったために、歯科は25%給付で、75%が自己負担だ。

日本は評価が低く、すべて保険なので、がんじがらめである。しかし、イギリスを見てきて、日本は良い国だと思えるようになった。つまり、日本ではまだ、患者さんに現時点で最高の治療をやろうと思えば、できる余地がある。つまり、保険がきかなければききませんよ、という余地がある。医療とは、現時点で最高の治療をやるべきだ。

保険だけというのは、技術の出し惜しみである。やってあげたくてもやってあげられないのが保険診療でのジレンマだ。イギリスでは高福祉で広くバラまいたためできない。患者さんが、健康に対する価値観さえ持てば、やれる余地が日本にはまだある。

日本は民間保険を国が認めている。歯科医にとって光が見えてきたと評価したい。民間保険を必要としないというケースでは、歯科医と患者さんとの信頼関係で行う。

予防で実績高いスイス

スイスは予防に熱心で、子供から徹底的に努めておりむし歯は10年前の75%減少した。賛否両論があると思うが、これはフッ素によるものだ。まずフッ素を食卓塩に入れたそうだ。また、フッ素の錠剤を食後に噛ませた。

だから、もしむし歯になったら自費で直しなさいという考え方だ。国が予防の方向に力を入れ実績をあげたのだからあとは自分たちでやりなさいというのがスイスである。

つまり、イギリスとスイスは正反対であった。ナショナルヘルスサービスの財源はいわゆる17%の付加価値税からきているのだ。

いずれにしても、イギリスは低迷しており、スイスのような予防を主眼としたヘルスサービスにもっちきたいとの考え方もあり、多様化しつつある。

一方西ドイツでは、国際デンタルショーに参加したが、実に立派な内容であると思った。10ホールあり1回ではとても回り切れなかった。あれだけの規模のものを見ると歯科医療はまだまだ広がりを持つものだと、強く感じた。診療部門より技工部門がかなり注目されていた。

器材の流れは注目されたがドイツでは、技工部門の引き締め行われていた。全顎のゴールドブリッジが保険でカバーされていたが、テレスコープなどは1顎4本までがゴールドでできる、というようになった。

そして、その5割を患者が払うことになった。日本はまだ、そこまでもいっていない。ドイツは技術評価がとても高い。このため、歯科医も技工士もやりがいがとてもある。

日本は総義歯が13000円程度だ。ドイツとは比較にならない。日本は保険が質より量となっている。

高質の医療を追及する

日本の場合、一番問題となるのは、6か月ごとに義歯を新たに入れることができる制度となっている。

このために、生涯に多くの義歯を作り変えることになってしまう。患者さんもだから多少合わなくてもいいんだ、という考え方をしてしまう。これは恐ろしいことだ。

これよりも、たった1個の義歯でも、それがすごく長持ちをして、口の中で具合よく機能している質の高い補綴物の方がずっとよい。

ドイツ人のそのような考えによって生まれたのがテレスコープシステムだ。

安易な治療をバラまくのではなくよい治療を行うべきだ。国民の医療費が国によって決められている以上、保険医が増加をしつづけ、それを分配しているより、全然、決まっていない医療費(自費)を、よい治療をやって、患者さんに感謝されて、報酬を受けた方が望ましい。